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江川紹子の「事件ウオッチ」第31回

非難轟々の【元少年Aの手記『絶歌』】で軽視される「言論の自由」と出版の意義

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 「裁判を傍聴した人はわずかだし、後になってから事件を知りたい人もいるだろうから、こういう記録を残すことは必要だと思ったので、別に腹も立たなかった」と高橋さん。

 高橋さんは裁判を傍聴し、林の供述や証言を聞いており、何が書かれているかは察しがついたので、すぐに読みたいとは思わなかった。

「でも、後から読みたくなるかもしれないと思って、本屋さんで一冊買いました」

 高橋さんは、後世に事件の記録を残すためには、被害者サイドの記録も必要だと考え、その後、自身の手記を出版している。

 秋葉原無差別殺傷事件を起こした加藤智大死刑囚も、手記『解』(批評社)を出した。被害者や遺族からは、その内容に「子どもの言い訳」などと批判の声が上がっているが、出版そのものをとりやめろという動きにはなっていないようだ。

 このように、犯罪の被害者でも受け止め方はいろいろだ。土師さんの見解は、土師さん個人の見解であって、被害者を代表する見解というわけではないだろう。それに、死者13人、重軽傷者が6300人もいる地下鉄サリン事件のようなケースでは、被害者一人ひとりの承諾を得ることなど不可能な話だ。「加害者は被害者の了解がなければ出版してはいけない」などと、一般化して議論できる話ではない。もっと冷静な受け止めが必要だ。

『絶歌』出版は無意味ではない

 『絶歌』については、明石市が書店や市民に「配慮」を求め、泉房穂市長が「遺族の同意なく出版されること自体許されない行為で、加担してほしくない。私個人の思いとしては売らないでほしいし、買わないでほしい」と発言。いくら被害者感情に対する配慮といっても、自治体の長が出版物の販売や購入の自粛を要請する趣旨の発言をするのは尋常ではない。

 図書館にも閲覧制限の動きが出ている。明石市図書館では本を購入せず、兵庫県立図書館では貸し出し制限として、「研究目的」に限り館内限定で閲覧を認め、複写は一切認めない、という。

 いずれも被害者感情に配慮するあまり、人々の知る権利が過小に扱われてはいないだろうか。図書館関係者は、日本図書館協会が採択した「図書館の自由に関する宣言」を読み直してもらいたい。

 また、印税収入の扱いをめぐって、多くのメディアに「サムの息子法」なる米国の法律が紹介されている。犯罪の加害者が犯罪行為に関わる手記の出版などで得た収入を、被害者の申立によって取り上げることができるようにする法律と説明されている。こうした法律の制定を求める声が高まっているという報道もあり、ネットでのアンケートでも同様の結果が出ているようだ。

 しかし、少なくとも今回のケースでは、現行制度で対応ができるはずだ。土師さんが約1億円の損害賠償を求めた民事裁判は、A側が争わなかったため請求通りの金額で判決が確定している。「週刊文春」(文藝春秋社/6月25日号)によると、Aと両親は、他の被害者2人の分も含めて総額約2億円の賠償責任を負った。両親の手記の印税やAの父親の退職金に加え、毎月A自身が1万円、両親が6万円ほどの支払いを続けているが、現在でも1億数千万円の負債が残っているという。

 この場合、土師さんは、Aの印税支払い請求権を差し押さえるなどの法的措置をとることができる。前述したオウム事件の林郁夫の本については、遺族ではない被害者が印税を差し押さえる手続きをしたと聞く。表現の自由や財産権のうえで問題になりそうな新たな法を作って規制しなくても、すでに法的手段は用意されている。メディアは、そこをきちんと伝える必要があるのではないか。

 また『絶歌』の編集者は、ネットメディアの取材に対して、「著者本人は、被害者への賠償金の支払いにも充てると話しています。これまで著者自身としては微々たる額しか、支払えていなかったということですので」(弁護士ドットコムより)と述べており、わざわざ土師さんが法的措置をとる必要もないかもしれない。

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