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「半病人状態」だった比嘉大吾をリングに上げてよかったのか?「減量神話」の罪

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 もちろん、加えて「転級のタイミングを誤った」という事情があるのも確かだろう。比嘉は昨年5月のタイトル獲得時も体重が落ちずパニック障害に陥っており、2月のV2戦でも脱水症状を訴えている。ジムでも転級を見据えていたさなかであり、その意味でもまさに“余計な1試合”だったといえる。

日本で「減量神話」が根強い理由


 しかし、今さらではあるが、体力を犠牲にしてまで過度な減量をして階級を落とす意味など、果たして本当にあるのだろうか。もちろん、階級を下げれば体格差からある程度有利になることは容易に推測されるし、「1階級違えば、パンチはまるで違う」ともよくいわれる。

 だが、実際にそれがどの程度試合に影響しているかは計測不可能な上、パンチ力の違いにしても、あくまで選手が受ける“感じ”でしかない。また、体重を上げれば自身のパンチもその分重くなるはずだが、なぜかほとんどの選手はそれを考えないのである。さらに、今は昔と違い前日に計量を行うためリバウンドの差も激しく、実際の体重との関係性も薄れつつある。最近では、なんと1日で9.6kgリバウンドした実例もあるほどだ。

 一方で、日本でも「減量神話」は依然として根強い。特に具志堅会長の世代はそれが強いとされるが、原因は彼らの現役時代に2つの衝撃的な試合があったからだといわれている。

 ひとつは、1978年に55勝(53KO)無敗のバンタム級王者、カルロス・サラテ(メキシコ)が1階級上の王者ウィルフレド・ゴメス(プエルトリコ)に挑み、5回KOで惨敗した試合。もうひとつは、そのゴメスが32連続KO勝利・17連続KO防衛中だった81年に1階級上の王者サルバドル・サンチェス(メキシコ)に挑み、8回KOで惨敗した試合である。

 絶対王者のパンチでも、1階級違えば通用しない――これは当時のボクサーたちの脳裏に刻まれ、半ばトラウマのようにさえなってしまっているという。だが、それらの試合に関しても必ずしも体重差が影響したとは限らず、単なる実力差によるものだったかもしれないのだ。

 いずれにしても、今回の比嘉は大方の予想だった「1年間」ではなく「無期限」の資格停止となったことで、最低でも1年半~2年のブランクをつくると予想されている。また、その先は2階級上げてバンタム級(53.52kg以下)で再起するとも見られている。

 しかし、今後については必ずしも悲観的な材料ばかりではない。比嘉が減量苦から解放され、これまで以上のパフォーマンスを見せることも十分に考えられるし、将来的には、5月25日にWBA世界バンタム級タイトルに挑む井上尚弥(大橋)との“黄金カード”が実現する可能性もある。人間万事塞翁が馬、ボクサー人生においても何が幸いするかは誰にもわからない。

 ゴールデンウィーク最終日の5月6日。比嘉は試合後初めてツイッター、インスタグラムを更新した。一時は「このまま引退するのでは」と心配されたが、友人たちとバーベキューを楽しみながら笑顔でピースサインをするなど、久々に元気な姿を見せてくれた。比嘉はまだ22歳。今回の件を「悲しき終章」とするか、「新生・比嘉」へのスタートラインとするかは、まったくもって彼次第なのである。
(文=河崎恭史/ノンフィクション・ライター)

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