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山崎将志「AIとノー残業時代の働き方」

野球ならボール、文房具なら学習ノート…地味なビジネスほど儲かる?

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「ジレットモデル」が機能しなくなってきた


 ところで近年では、このジレットモデルは、必ずしもすべてのサプライ品市場を自社で取れなくなってきています。

 たとえばインクジェットプリンターのインクカートリッジは、純正品だと全色セットで7000円ほどの値段で売られているものと同等品を、ネットショップで300円程度で買うことができます。メーカーは純正品以外のインクを一度でも使えば本体の保証をしないと謳っています。それでも、インクジェットプリンター本体を1万円程度で買えるのですから、ちょっと計算すれば社外品のインクカートリッジを使って壊れたとしても、買い直したほうが安いことがわかります。また、ネット上に投稿されている商品レビューに故障の報告がほとんどなければ、まあ大丈夫だろうと考える人も多いでしょう。

 また、カプセル式コーヒーにも、別の会社が提供する互換性のあるカートリッジが存在します。ネットショップで値段を調べてみると、純正品の6割程度の値段で売られています。カプセル式コーヒーのマシンの寿命を左右する重要な部品は、気密性を保つためのシールです。以前は、このシールはマシン本体に組み込まれていましたが、現在はカプセル側に埋め込まれるようになりました。その技術は難しくお金もかかるため、社外品カートリッジは出てこないと考えられてきましたが、これだけ普及した製品ですから、やはり目を付ける事業者も出てきます。互換性のあるカートリッジが出てきた際には、案の定コーヒーマシンのメーカーは訴訟を起こしました。しかし、現在の販売状況から推測するに、メーカーはカプセル式コーヒーの知的財産権を完全に守れてはいないようです。

 社外品カプセルの販売事業者とマシンのメーカーとの間でなんらかの取り決めがあるのか、あるいはまったくの野放し状態なのかは、今のところ明らかにはされていません。

 インクジェットプリンターやカプセル式コーヒーなど、業界のガリバー企業でさえ利益の源泉であるサプライ品市場を守り切れないことがあるのです。起業を検討している人であれば、このような独占市場が転がっていないか、常にアンテナを張っておく必要があるでしょう。

コピー商品が美しくないと思うなら発明を!


 とはいえ、ジレットモデルにおける消耗品を安く提供することは、悪い言い方をすればコピー商品の安売り販売です。法的に問題がなく、消費者に支持されればそれはそれで立派なビジネスですが、美しさに欠けていると考える人もいるでしょう。ならばやるべきことは一つ、発明です。

 歴史が長く、プレーヤーの少ない市場では特徴をなかなか出しづらく、発明は難しいものです。それでも、チャンスを見つけてそのなかでも新しいカテゴリーをつくり出す企業が成功を収めています。

 たとえば、学習用ノートの市場では、一般的な製品よりも20%軽くした商品があります。学習用ノートは画一化された商品で、表紙のデザインを変える、罫線にドットを入れるなど、各社が小さな差別化により戦っている、基本的には価格勝負の市場です。

 しかし、重さに目を付けたこの会社は、一般的に120グラムの学習用ノートを、96グラムでつくりました。たったの20数グラムと思うかもしれませんが、たとえば小学生のランドセルにノートが5冊入っているとすれば、合計で120グラム軽くなります。最近の小学生は持たされる荷物が多いことが問題になっているなかで、一般的なノートよりも値段が高いにもかかわらず着実に売上を伸ばしています。機能面でも、紙の厚さは同じで裏写りせず、書き心地も同じになるよう表面が加工されているそうです。

 学習用ノートという小さな市場のさらにニッチな領域ですが、少子化が進んでいるとはいえ、毎年100万人程度の新しい小学1年生が参入し、そのほとんどが12年間ノートを買い続けます。さらに高校進学者の50%以上が大学に進学し、またノートを4年間買います。ノートは一度使ったら終わりの消耗品です。ビジネスとしては私にはとても魅力的に映ります。

 新規ビジネスを考えるというと、どうしても巨大な市場を狙おうとしてしまいがちです。「大きく考え、小さく始める」といわれるように、大きな構想がなければ大きなことはできませんが、今携わっている仕事の内容や、能力、人脈、資金調達力とあまりにかけ離れていると、単なる夢想家で終わってしまう恐れもあります。

 目立たない小さな市場で確実に勝っていくという戦略も研究すべきと私は思います。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)

●山崎将志
ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。コンサルティング事業と並行して、数社のベンチャー事業開発・運営に携わる。主な著書に『残念な人の思考法』『残念な人の仕事の習慣』『社長のテスト』などがあり、累計発行部数は100万部を超える。
2016年よりNHKラジオ第2『ラジオ仕事学のすすめ』講師を務める。
最新刊は『儲かる仕組みの思考法』(日本実業出版社)

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